先代の婆様は、田舎農家の人なので、食べるものには不自由ない暮らしだけれど、お茶だのお花だの日本舞踊といったあか抜けた教養にはとんと縁がなく、料理もお裁縫も自己流で身に付け、生まれ持った身体がすこぶる健康体だったということもあって、畑仕事もそこいらの若造よりよっぽど良い働き手だったそうです。

時間を無駄にするのが何より嫌いで、とにかく朝から晩まで動き通し、畑やりながら、食事作って、水汲んで(当時は井戸)、掃除、洗濯、夜は内職の裁縫、という具合で、働くことは少しも苦ではなかったらしい。

決して怠け者ではないけれど、経験浅い新嫁(婆様)は言われたことをこなすだけで精一杯で、妊娠が分かって(お腹に居るのはダンナの姉)、時折実家帰省する度に、

嫁ぐ前は柳原加奈子ちゃんばりに、ほっぺたぷっくぷくだったのが、

空気がしぼんだ風船みたいに痩せていくので、お腹に子供が居るのに大丈夫なのかと、実家では相当心配していたらしい。

それが当時の嫁の有り様だったと言ってしまえばそれまでだけど、婆様という人は育ちが良いせいか、持って生まれた性格なのか、何事に付けても大らかで、楽観的で、嫌なことがあってもお腹に溜めないという希有な気質で、

普通なら、妊娠してる嫁を気遣うどころか、顎でこき使うひどい鬼姑とか(ただ、先代は先頭切って自分が働いているので、こき使ってるというのとは当たらないかと)、
どれだけ悪し様に言っても可笑しくない筈なのに、

私がダンナに嫁いで20年、同居して10年、色々な昔話を伺いましたし、先代が厳しくキツい方だった逸話は随分と聞きましたが、それでも婆様が先代を悪く言うことは滅多にありません。
(これは凄いことだと思う。感服します)

まあ、私も相当のんびりな方だったからねえと、笑って振り返ることの出来る、その天真爛漫さは婆様当人のみならず、婚家の姑、亭主、亭主の同居弟、亭主の妹(嫁に行ったのにしょっちゅう遊びに来てたらしい)、果ては息子の嫁(ワタクシ)に至るまで、関係各方面に多大な恩恵をもたらして下さってるわけです。

でなきゃー、血で血を洗う嫁姑大バトルか、麗しき笑顔の下の血も凍る冷戦、呪わしき負の連鎖となるところですわ。

うちの実家の母親なんか、姑の悪口言い始めたら、一晩中止まらないですよ。
もーね、坊主憎けりゃ袈裟までと言いますけど、相手はもうとっくに死んじゃった人なのに、思い出すだけでありとあらゆることが甦って来て、吐き出す程に怒りの炎は益々燃えさかって来るらしく、聞いてる方がうんざり辟易しちゃうので、今実家ではその話題は禁句ですけどね。
(それでいて、弟のお嫁さんに対してどうかといえば、どう贔屓目に見ても心優しい姑とは遥かにかけ離れているとしか言いようがない)
(自分の親ながら、嫁いびりも大概にせえよと言いたくなります)
(ワタクシ、長女として、弟のお嫁さんには本当に申し訳なく、恥ずかしく、また心から感謝しております)

ダンナ曰く「(うちの母親って)不思議な人だよね。少しも仲良くなかったんだよ。うちの婆さん(先代)って人は息子(爺様)とだって仲悪くて、とにかくしょっちゅう喧嘩ばかりしてたんだから」

引いたら負け、決して自分から先に折れることはない、そんな強情な所は親子なだけにそっくりだったらしい。

それでも、唯一、婆様が先代を凌いだ、手縫いの布団地の逸話というのがございまして、

戦争も過去のこととなり、暮らしも少しずつ上向きになっていったけれど、まだまだ生活は苦しくて、布団を新調したくてもそんな余裕はなく、

幸い、着古した着物をほどいた端切が山ほどあったので、婆様は一念発起して、端切を縫い合わせ、布団の表布を一人で縫い上げ、綿だけは布団屋さんに頼まなければならなかったので、馴染みの布団屋さんを頼んだところ、

その仕上がりの見事さに、布団屋さんがすっかり感心して、「どなたが縫われたんですか。まるで本職がやったような仕事ですよ」と絶賛して下さったそうで、

「私もね、伊達にお裁縫教室行ってた訳じゃないから、時間はかかるけど、ちゃんと寸法測って、丁寧に縫うのは嫌いじゃなかったのよ」とは鼻高々の婆様の弁。

今でも、家族の誰かの寝具を新調しようかという話になると、必ず、このエピソードが語られます。
(それもう何十回も伺いましたから~)

婆様「でもねー、お婆ちゃん(先代)には、それしきの縫い物にいつまで掛かってるんだって、良く叱られたわ。お婆ちゃんは習い事なんか行かせてもらえなかったから、全部独学で身に付けた人なんだけど、とにかく仕事が手早いのよ。私が一枚縫い終えるまでに、三枚くらい楽々仕上げちゃってるのよ」

夜の裁縫は内職だから、丁寧に仕上げるのも大切だけど、一枚幾らの報酬ですから、そら、ちんたら縫ってたら、スピードアップして枚数稼がんかい!と急かされるのも仕方ないかなー。

ところで、例の手縫いの布団ですが、布団屋が絶賛している横で、先代の婆様の反応はどうだったかというと…

婆様「さあー、どうだったかしらねえ?」

…おい ||| \( ̄▽ ̄;) |||
さすが、天然丸出し。

…そりゃー、先代は面白くなかろー。

育ちのいいのを鼻に掛けた(鼻に掛けては居ないけど、~ですわとか、~ですのなんて口振りで返事されると、田舎育ちをバカにされているような僻みも出ようってもんです)、
世間知らずのおっとりのんびり嫁が、本職みたいですねえと、これ見よがしに持ち上げられて、

それでも鷹揚に「自慢の嫁ですから」なんて返せれば、姑としても超一流だけど、人間なかなかそうはゆったり構えられないものだから。

今も昔も、げに嫁姑ほど、難しき関係はなかりけり。

(もう1回続きます)
POTE
Posted byPOTE

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